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顧客視点を可視化!カスタマージャーニーマップとは?基本の作り方

顧客視点を可視化!カスタマージャーニーマップとは?基本の作り方

自社の商品やサービスについて、「お客様はどんな時に、どんな気持ちで購入を決めているんだろう?」「どこかで不便や不満を感じさせていないだろうか?」と考えたことはありませんか? 顧客一人ひとりの体験(CX = カスタマーエクスペリエンス)を向上させることが、ビジネスの成長に不可欠となった今、顧客の視点に立ってその「体験の旅」を理解するための強力なツールがあります。それが「カスタマージャーニーマップ」です。

この記事では、カスタマージャーニーマップとは何か、その基本的な構成要素、そして初心者でも実践できる具体的な作り方のステップ、さらに簡単な事例までを分かりやすく解説していきます。

カスタマージャーニーマップとは?(顧客の「体験の旅」を可視化する地図)

カスタマージャーニーマップとは、その名の通り、顧客(カスタマー)が特定の目的(例:商品購入、問題解決など)を達成するまでのプロセス(ジャーニー=旅)を、時間軸に沿って、行動、思考、感情、企業との接点(タッチポイント)などの観点から「可視化」した「地図」のことです。「ジャーニーマップ」と略されることもあります。

なぜ「旅の地図」なのでしょうか? 顧客は、ある商品やサービスを認知し、興味を持ち、情報を集め、比較検討し、購入し、利用し、そして時にはサポートを求め、最終的にリピーターやファンになる(あるいは離れていく)という、一連の「旅」をしています。カスタマージャーニーマップは、この顧客の旅路全体を俯瞰し、顧客がその道のりの各段階で「何を見て、何を感じ、どう行動するのか」を、あたかも一緒に旅をしているかのように理解するためのツールなのです。

このマップを作成する主な目的と重要性は以下の通りです。

  • 顧客視点の獲得と共感: 企業側の思い込みではなく、顧客が実際にどのような体験をしているのか、どのような気持ちなのかを具体的に理解し、共感することができます。
  • 顧客体験(CX)全体の把握: 個別の接点だけでなく、認知から購入後までの一連の体験の流れを把握することで、全体最適の視点を持つことができます。
  • 課題(ペインポイント)の発見: 顧客が旅の途中で感じる不満、不安、ストレスといった「課題(ペインポイント)」や、スムーズに進めない「障壁」となっている箇所を具体的に特定できます。
  • 改善機会の特定: 発見された課題を解決するための具体的な改善策や、顧客体験をさらに向上させるためのアイデア(改善機会)を見つけ出すヒントが得られます。
  • 部門間の共通認識の醸成: マーケティング、営業、開発、サポートなど、顧客に関わる様々な部署の担当者が、顧客体験に関する共通の理解を持つことができ、部門間の連携を促進します。(例:「ここで顧客は不安を感じているから、〇〇部と協力して情報提供を強化しよう」)

カスタマージャーニーマップは、顧客中心の考え方を組織に浸透させ、具体的なアクションに繋げるための強力なコミュニケーションツールでもあるのです。

マップの骨組み!カスタマージャーニーマップの主要な構成要素

カスタマージャーニーマップは、決まったフォーマットがあるわけではありませんが、顧客体験を効果的に可視化するために、一般的に含まれる主要な構成要素があります。これらがマップの「骨組み」となります。

  1. ① ペルソナ (Persona)
    • 内容: このジャーニーマップが「誰」の体験を描いているのかを示す、具体的な顧客像です。年齢、性別、職業、ライフスタイル、価値観、ITリテラシー、抱えている課題などを詳細に設定した架空の人物像。
    • 役割: チームメンバー全員が、特定の顧客になりきって感情移入し、議論を進めるための共通の基盤となります。複数のペルソナを設定することもあります。
  2. ② シナリオ (Scenario) と ゴール (Goal)
    • 内容: ペルソナがどのような状況で、何を達成しようとしているのか、マップで描く具体的な「旅の筋書き」です。
    • 例: 「初めての一人暮らしのために、オンラインで賃貸物件を探し、契約する」「利用中のサービスの不具合について、サポートに問い合わせて解決する」など。
    • 役割: 分析の対象となる顧客体験の範囲を明確にします。
  3. ③ ステージ(段階 / Phase)
    • 内容: ペルソナがゴールに向かう過程における、主要な行動段階です。時間軸の区切りとなります。
    • 例(商品購入の場合): 認知 → 興味・関心 → 情報収集 → 比較検討 → 購入 → 利用開始 → 継続利用 → 推奨/離脱
    • 役割: 顧客の行動や心理が変化する大きな節目を示し、分析の骨格となります。シナリオによってステージの名称や数は異なります。
  4. ④ 行動 (Action) と タッチポイント (Touchpoint)
    • 内容: 各ステージにおいて、ペルソナが具体的に「何をするか」(行動)、そして企業やブランドと「どこで接触するか」(タッチポイント=顧客接点)を記述します。
    • 行動例: Web検索する、SNSを見る、友人に相談する、店舗に行く、資料請求する、問い合わせる、購入手続きをする、製品を使う、レビューを書く など。
    • タッチポイント例: Webサイト、ブログ、SNSアカウント、広告、店舗、営業担当者、コールセンター、メールマガジン、製品本体、梱包、請求書 など。
    • 役割: 顧客の具体的な動きと、企業との関わり方を明らかにします。
  5. ⑤ 思考 (Thinking) と 感情 (Emotion / Feeling)
    • 内容: 各ステージや行動において、ペルソナが「何を考えているか」「どのように感じているか」を記述します。これはマップ作成において最も重要かつ難しい部分であり、顧客への深い洞察が求められます。
    • 思考例: 「本当にこれでいいのかな?」「もっと安いのはない?」「手続きが面倒だな」「この情報、役に立つ!」など。
    • 感情例: ワクワク、期待、不安、疑問、イライラ、満足、感動、安心、後悔など。(感情の起伏を線グラフなどで表現することも多いです)
    • 役割: 顧客の目に見えない心理状態を可視化し、体験の質を評価する上で中心的な役割を果たします。
  6. ⑥ 課題(ペインポイント)と改善機会 (Opportunity)
    • 内容: 思考や感情がネガティブになっている箇所や、行動がスムーズに進まない箇所を「課題(ペインポイント)」として特定します。そして、その課題を解決したり、体験をより良くしたりするための「改善機会(アイデア)」を記述します。
    • 役割: マップ作成の最終的な目的である、具体的な改善アクションに繋げるための重要なアウトプットとなります。

これらの要素を一枚の図(マップ)にまとめることで、複雑な顧客体験を関係者全員が共有し、議論するための土台ができあがります。

【実践】カスタマージャーニーマップの作り方【8ステップで解説】

【実践】カスタマージャーニーマップの作り方【8ステップで解説】

では、実際にカスタマージャーニーマップを作成するには、どのような手順で進めれば良いのでしょうか? ここでは、基本的な8つのステップに分けて解説します。チームで協力しながら進めるのが効果的です。

  1. ステップ1:マップ作成の「目的」と「スコープ」を明確にする
    • まず、「何のためにこのマップを作るのか?」という目的を明確にします。(例:特定のサービスの解約率を減らすため、新規顧客のオンボーディング体験を改善するため、など)
    • 次に、「誰(ペルソナ)」の「どの体験(シナリオとゴール)」に焦点を当てるのか、分析の範囲(スコープ)を具体的に定めます。最初から全ての顧客の全ての体験を網羅しようとすると複雑になりすぎるため、絞り込むことが重要です。
  2. ステップ2:マップの主人公となる「ペルソナ」を設定する
    • スコープで定めたターゲット顧客を代表する、具体的な人物像(ペルソナ)を作成します。名前、年齢、職業、家族構成、価値観、ITリテラシー、抱えている課題やニーズなどを、調査に基づいてリアルに設定します。
  3. ステップ3:ペルソナの行動シナリオと「ステージ(段階)」を設定する
    • 設定したペルソナが、設定したゴールを達成するために、どのようなプロセス(段階)を辿るのかを定義します。ステージの数はシナリオによりますが、一般的には5〜10程度が考えられます。(例:認知→情報収集→比較検討→購入→利用開始…)
  4. ステップ4:各ステージでの顧客の「行動」と「タッチポイント」を洗い出す
    • 各ステージにおいて、ペルソナが具体的にどのような行動をとるか、そしてどこで企業やブランドと接触(タッチポイント)するかを、できるだけ具体的にリストアップします。既存のデータ(アクセス解析、購買データなど)や顧客へのヒアリングを参考にします。
  5. ステップ5:顧客の「思考」と「感情」を調査・マッピングする【最重要】
    • これがマップ作成の肝となる部分です。各ステージ・各行動において、ペルソナが何を考え、何を感じている(期待、不安、満足、不満など)かを明らかにします。ここは憶測ではなく、実際の顧客の声に基づいて記述することが非常に重要です。
    • 調査方法例: 顧客アンケート、ユーザーインタビュー、カスタマーサポートへの問い合わせ記録の分析、SNS上の口コミ分析、アクセス解析データ(離脱箇所などから推測)などを活用します。感情の変化は曲線グラフなどで表現すると分かりやすくなります。
  6. ステップ6:「課題(ペインポイント)」と「改善機会」を特定する
    • ステップ5で明らかになった顧客の思考や感情、特にネガティブな感情(不満、不安、イライラなど)や、行動が停滞している箇所に着目し、具体的な「課題(ペインポイント)」を抽出します。
    • そして、その課題を解決するために「どうすれば顧客体験を改善できるか?」という視点で「改善機会(アイデア)」を考え、マップに書き込みます。
  7. ステップ7:情報を整理し、マップとして「可視化」する
    • ここまで集めた情報(ペルソナ、ステージ、行動、タッチポイント、思考、感情、課題、機会)を、一枚の図や表にまとめ、誰が見ても分かりやすいように「可視化」します。
    • ツールは、Excelやスプレッドシート、パワーポイント、あるいはオンラインホワイトボードツール(Miro, Muralなど)、専用のカスタマージャーニーマップ作成ツール(Smaplyなど)を活用すると良いでしょう。テンプレートを利用するのも効率的です。
  8. ステップ8:マップをチームで「共有」し、具体的な「改善アクション」に繋げる
    • 作成したマップは、関係部署(マーケティング、営業、開発、サポートなど)のメンバーと共有し、顧客体験に対する共通認識を醸成します。
    • そして最も重要なのは、マップから得られた気づきや改善機会を、具体的な施策に落とし込み、実行に移すことです。作りっぱなしにせず、定期的にマップを見直し、改善活動を進めていくことが、CX向上に繋がります。

【事例でイメージ】カスタマージャーニーマップの簡単な例

言葉だけではイメージしにくいかもしれませんので、非常に簡単なカスタマージャーニーマップの例を2つご紹介します。実際にはもっと詳細な情報を書き込みますが、ここでは骨格となる要素のイメージを掴んでください。

事例1:オンラインストアでスニーカーを購入する大学生Aさんのジャーニー

ステージ行動例タッチポイント例思考・感情例課題・機会例
認知・興味SNS広告を見る、友人の投稿を見るInstagram広告、友人「このスニーカーかっこいいな」「いくらだろう?」(期待)もっと詳細な情報への導線が欲しい(機会)
情報収集ブランドサイト訪問、レビューサイト確認公式サイト、レビューサイト「サイズ感どうかな?」「他の色もある?」(疑問)サイズ選びの情報が分かりにくい(課題)
比較検討他ブランドと比較、価格比較サイト確認公式サイト、比較サイト「こっちの方が安いけど…」「やっぱり最初のが良いか」(迷い)価格以外の価値(デザイン、限定性)を訴求(機会)
購入ECサイトで注文、決済ECサイト「早く届かないかな!」(期待)、「手続き少し面倒」(不満)決済方法をもっと増やす(機会)
利用・共有商品到着、履いて外出、SNSに投稿商品、SNS「履き心地良い!」「友達に自慢しよう!」(満足・喜び)着用イメージのSNS投稿キャンペーン実施(機会)

事例2:企業向けSaaSツールの無料トライアルを申し込む担当者Bさんのジャーニー

ステージ行動例タッチポイント例思考・感情例課題・機会例
課題認識・検索業務課題発生、解決策をWeb検索Google検索「この作業、もっと効率化できないかな…」(課題感)課題解決に繋がるブログ記事で引きつける(機会)
情報収集・理解複数ツールのWebサイト訪問、資料ダウンロード各社Webサイト、比較記事「機能は良さそうだけど、使いこなせるかな?」(期待と不安)機能説明動画や導入事例で不安解消(機会)
比較検討・評価各社機能比較、料金比較、社内相談Webサイト、営業資料「A社の方が安いけど、B社の方がサポートが良い?」(迷い)無料相談会やデモで疑問点を直接解消(機会)
トライアル申込B社のサイトから無料トライアル申込B社Webサイト「まずは試してみよう」(期待)、「入力項目が多いな」(不満)申込フォームの項目を最小限にする(機会)
トライアル利用ツールを試用、サポートに質問ツール本体、サポート窓口「操作が難しい…」「サポートの返信が早い!」(不満/満足)分かりやすいチュートリアルやサポート体制強化(機会)

これらはあくまで骨子ですが、このように顧客の行動と心理を時系列で追っていくことで、具体的な改善点が見えてくることがお分かりいただけるかと思います。

まとめ:顧客視点を組織に根付かせ、CX向上を実現しよう

今回は、顧客体験(CX)を理解し、向上させるための強力なツール「カスタマージャーニーマップ」について、その基本的な意味、構成要素、具体的な作り方のステップ、そして簡単な事例までを解説しました。

カスタマージャーニーマップを作成するプロセスそのものが、組織全体に「顧客視点」を根付かせるための有効なトレーニングにもなります。普段、部門ごとに分断されがちな顧客への視線を一つに束ね、「顧客にとっての理想的な体験とは何か?」を共通言語で議論するための土台を提供してくれるのです。

マップは一度作って終わりではありません。顧客のニーズや市場環境は常に変化します。定期的にマップを見直し、アップデートし、そこから得られる気づきを継続的なCX(顧客体験)向上のアクションへと繋げていくこと。それこそが、顧客との長期的な信頼関係を築き、これからの時代に企業が成長していくための重要な鍵となるでしょう。

  • この記事を書いた人

田中諒

10年以上に渡りSEOを生業としてきました。2019年からフリーランスとして活動開始中。編集者・コンテンツディレクターとしても活動しており、多くのWeb媒体でコンテンツ制作に関わる。

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