企業の成長と競争力強化のために、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が叫ばれて久しいですが、その波は経理部門にも確実に押し寄せています。「経理DX」という言葉を耳にする機会は増えたものの、「具体的に何から始めればいいの?」「どんなメリットがあるの?」「失敗しないためにはどうすれば?」といった疑問や不安をお持ちの経営者や経理担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「経理DX」の基本から、導入によって得られる具体的なメリット、成功に導くためのステップ、押さえるべき重要なポイント、ツールの選び方、そして陥りがちな失敗とその対策まで、初心者の方にも分かりやすく、網羅的に解説していきます。現在の最新動向(電子帳簿保存法改正、インボイス制度など)も踏まえながら、あなたの会社の経理DXを成功させるための具体的な道筋を示します。
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今さら聞けない経理DXとは?
最近よく耳にする「経理DX」。言葉は知っていても、その正確な意味や目的、なぜ今注目されているのかを具体的に説明するのは難しい、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。まずは、経理DXの基本について、分かりやすく解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の基本
経理DXを理解する前に、まずDX(デジタルトランスフォーメーション)そのものの意味を押さえましょう。DXとは、単にデジタルツールを導入すること(Digitization:デジタル化やDigitalization:デジタライゼーション)ではなく、「デジタル技術を活用して、企業のビジネスプロセス、組織文化、顧客体験などを根本的に変革し、新たな価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」を指します。既存のやり方をデジタルに置き換えるだけでなく、デジタルを前提としてビジネスのあり方そのものを変えていく、より広範で深い概念です。
経理DXとは?
これを経理部門に当てはめたのが「経理DX」です。つまり、経理部門が担う業務プロセスや組織のあり方を、デジタル技術(クラウド、AI、RPAなど)を活用して根本的に見直し、変革していく取り組みと言えます。 その目的は、単なる業務効率化にとどまりません。
- 守りのDX: 従来の経理業務(記帳、請求書処理、経費精算、入金管理、決算など)を効率化・自動化し、コスト削減、ミスの削減、決算早期化などを実現する。
- 攻めのDX: 効率化によって生み出された時間や、デジタル化によって蓄積されたデータを活用し、経営分析や将来予測、予算策定支援など、より付加価値の高い業務を行い、経営戦略の意思決定に貢献するパートナーへと進化することを目指します。
なぜ今、経理DXが必要なのか?
経理DXが多くの企業にとって喫緊の課題となっている背景には、いくつかの要因があります。
- 働き方の変化: リモートワークの普及など、場所に縛られない働き方が一般化し、紙ベースの業務や押印文化がボトルネックになっています。
- 法制度の改正: 日本では、改正電子帳簿保存法(2024年1月より電子取引データの電子保存が義務化)や、インボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応など、法制度がデジタル化を後押し(あるいは必須化)しています。これらに効率的かつ正確に対応するためには、デジタルツールの活用が不可欠です。(※2025年4月時点)
- 人手不足と生産性向上: 少子高齢化による労働人口の減少が進む中、限られた人員で高い生産性を維持・向上させるためには、定型的な業務の自動化・効率化が急務です。
- データ活用の重要性: 変化の激しい経営環境において、迅速かつ的確な意思決定を行うためには、リアルタイムで正確な経営データの把握と分析が不可欠であり、経理部門が持つデータの戦略的価値が高まっています。
- テクノロジーの進化: クラウド会計ソフト、AI-OCR、RPAなどの技術が進化し、比較的手頃なコストで導入できるようになったことも、経理DXを後押ししています。
経理DXは、もはや一部の先進企業だけのものではなく、企業の持続的な成長のために、あらゆる規模の企業が取り組むべき重要な経営課題となっているのです。
経理DXがもたらす主要メリット
経理DXに取り組むことで、企業は具体的にどのような恩恵を受けられるのでしょうか? そのメリットは多岐にわたりますが、ここでは特に重要と考えられる主要なメリットを7つ挙げ、それぞれ具体的に解説します。これらの効果を理解することが、経理DX推進のモチベーションとなり、目的設定にも役立ちます。
- メリット①:圧倒的な業務効率化と生産性向上
これが最も直接的で分かりやすいメリットです。これまで手作業で行っていた定型業務(請求書の発行・受領・データ入力、経費精算の申請・承認、仕訳入力、入金消込、帳票作成など)を、クラウドシステムやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを活用して自動化・効率化できます。 - メリット②:コスト削減効果
業務効率化は、人件費の最適化にもつながります。また、ペーパーレス化を進めることで、紙代、印刷代、郵送費、書類の保管スペースといった物理的なコストも大幅に削減できます。さらに、リモートワークが可能になれば、オフィスコストの削減も期待できます。 - メリット③:ヒューマンエラー削減による正確性の向上
手入力や目視チェックといった手作業には、どうしても入力ミス、転記ミス、計算ミスなどのヒューマンエラーがつきものです。経理DXによってこれらの作業を自動化することで、人為的なミスを大幅に減らし、データの正確性を格段に向上させることができます。これは、信頼性の高い財務諸表の作成や、適切な経営判断の基礎となります。 - メリット④:月次・年次決算の早期化
日々の仕訳入力の自動化、請求書や経費精算データのリアルタイム連携、照合・消込作業の効率化などにより、月次決算や年次決算にかかる時間を大幅に短縮できます。決算が早期化すれば、経営状況をタイムリーに把握し、迅速な意思決定や対策を打つことが可能になります。 - メリット⑤:リアルタイムなデータ可視化と経営戦略への活用
クラウド会計ソフトやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどを活用することで、売上、費用、利益、キャッシュフローといった経営データをリアルタイムに近い形で可視化できます。これにより、経営者は常に最新のデータに基づいた状況判断が可能となり、より的確でスピーディーな経営戦略の立案・実行が可能になります。経理部門は、単なる記録係ではなく、経営の意思決定を支える重要な役割を担うことができます。 - メリット⑥:電子帳簿保存法など法改正へのスムーズな対応
近年、電子帳簿保存法の改正やインボイス制度の導入など、経理業務を取り巻く法制度はデジタル化を前提としたものに変化しています。経理DXを進め、適切なシステムを導入することで、これらの法改正にスムーズかつ効率的に対応することができます。コンプライアンス(法令遵守)体制の強化にもつながります。 - メリット⑦:ペーパーレス化によるリモートワーク推進と働き方改革
紙の書類や押印に依存した業務プロセスをデジタル化・ペーパーレス化することで、経理担当者も場所に縛られずに働けるようになり、リモートワークや柔軟な働き方を推進できます。これは、従業員のワークライフバランス向上や、多様な人材の確保、さらにはBCP(事業継続計画)対策としても有効です。
これらのメリットは、単に経理部門だけの問題ではなく、企業全体の競争力強化や持続的成長に直結する重要な要素です。経理DXは、コストセンターと見られがちだった経理部門を、価値創造に貢献するプロフィットセンターへと変革させる可能性を秘めているのです。
経理DXを成功させるための進め方

経理DXのメリットは理解できたものの、「具体的に何から、どのように進めていけば良いのか?」というのが、多くの方が抱える疑問でしょう。やみくもにツールを導入するだけでは、期待した効果が得られないばかりか、かえって混乱を招くことにもなりかねません。ここでは、経理DXを成功に導くための標準的な進め方を、7つのステップに分けて具体的に解説します。
ステップ1:現状業務の可視化と課題分析、目的・目標設定
まず、自社の経理業務の現状を正確に把握することから始めます。
- どのような業務プロセスが存在するか?(請求書発行、入金管理、経費精算、月次決算など)
- それぞれのプロセスで、誰が、どのような手順で、どのくらいの時間をかけて作業しているか?
- 紙の書類はどれくらい発生しているか? 手作業による入力や転記はどれくらいあるか?
- 現状の課題は何か?(時間がかかりすぎ、ミスが多い、情報共有がしにくい、法令対応が大変など) 現状と課題を洗い出した上で、「なぜ経理DXを行うのか(目的)」、そして「経理DXによって何を達成したいのか(具体的な目標)」を明確に設定します。目標は、「月次決算にかかる時間を〇日短縮する」「請求書処理のコストを〇%削減する」「ペーパーレス化率を〇%にする」のように、測定可能なKPI(重要業績評価指標)を設定することが重要です。この段階で、経営層の理解とコミットメントを得ておくことも不可欠です。
ステップ2:DX化する業務範囲の決定と優先順位付け
全ての経理業務を一度にDX化するのは現実的ではありません。ステップ1で洗い出した課題や目標に基づき、どの業務範囲からDXに着手するかを決定し、優先順位をつけます。
- 優先順位付けの観点例:
- 課題が大きい業務(特に時間がかかっている、ミスが多いなど)
- 導入効果が高い(費用対効果が見込める)業務
- 比較的導入が容易で、早期に成果を出しやすい(スモールスタートに適した)業務
- 法令対応(電子帳簿保存法、インボイス制度など)で対応が急がれる業務 例えば、「請求書発行・受領プロセス」や「経費精算プロセス」などは、多くの企業で課題が多く、かつ効果が出やすいため、初期のターゲットとして選ばれることが多いです。
ステップ3:目的に合ったツール・システムの比較検討と選定
DX化する業務範囲が決まったら、その目的を達成するために最適なITツールやシステムを選定します。クラウド会計ソフト、経費精算システム、請求書関連システム、RPA、OCR、BIツールなど、様々な選択肢があります。
- 選定のポイント:
- 自社の業務プロセスや課題に合っているか?
- 必要な機能は揃っているか?(過不足はないか?)
- 既存システム(特に基幹システムや会計ソフト)と連携できるか?
- 操作性は良いか?(従業員が使いこなせるか?)
- セキュリティは信頼できるか?
- 導入・運用コストは予算に見合っているか?
- ベンダーのサポート体制は充実しているか? 複数のツールを比較検討し、無料トライアルやデモを活用して、自社に最適なものを見極めます。
ステップ4:具体的な導入計画策定と推進体制の構築
選定したツール・システムを導入するための具体的な計画を立てます。
- 導入スケジュール(いつまでに何を行うか)
- 必要な予算の確保
- 導入に伴う業務プロセスの変更点の洗い出しと設計
- データ移行の計画(既存データを新システムへ移行する方法)
- 従業員への教育・トレーニング計画
- 導入プロジェクトを推進するための体制(責任者、担当者、関係部署との連携)を構築します。
ステップ5:スモールスタートでのテスト導入と効果検証
いきなり全社展開するのではなく、まずは特定の部署や特定の業務プロセスに限定して試験的に導入(スモールスタート、パイロット導入)することをお勧めします。
- 実際にツールを使ってみて、操作性や機能に問題はないか?
- 想定していた業務プロセスで運用できるか?
- 期待した効果(効率化など)は出ているか? テスト導入を通じて課題を洗い出し、改善策を講じた上で、本格導入へのリスクを低減します。
ステップ6:全社展開(本格導入)と従業員への教育・定着支援
テスト導入で問題点を解消したら、計画に沿って本格的に導入を進めます。この段階で最も重要なのが、従業員への丁寧な説明と教育です。
- なぜDXが必要なのか、導入によって何が変わるのか、どんなメリットがあるのかを繰り返し説明し、理解と協力を得る(チェンジマネジメント)。
- 新しいツールや業務プロセスの操作方法について、十分なトレーニングを実施する。
- 導入後も、問い合わせ窓口を設置したり、フォローアップ研修を行ったりして、スムーズな定着を支援する。
ステップ7:導入効果の測定と継続的な改善(PDCAサイクル)
導入して終わりではありません。事前に設定したKPIに基づき、導入効果を定期的に測定・評価します。
- 目標は達成できたか?
- 新たな課題は出ていないか?
- ユーザーからの改善要望はないか? 測定結果やフィードバックを基に、運用方法を見直したり、さらなる改善策を検討・実行したりするPDCAサイクルを回していくことが重要です。また、他の業務範囲へのDX展開も検討していきます。
この7つのステップを着実に進めることが、経理DXを成功に導くための鍵となります。
経理DXの押さえるべきポイント
経理DXの進め方(ステップ)を理解した上で、プロジェクト全体を通じて常に意識しておくべき、成功のための重要な「考え方」や「原則」とも言えるポイントがいくつかあります。これらを押さえておくことで、DXの取り組みが形骸化せず、真の価値を生み出す可能性が高まります。
- ポイント①:「何のため」を常に意識する(明確な目的意識)
経理DXは、ツールを導入すること自体が目的ではありません。「自社の経営課題を解決するため」「経理部門の生産性を向上させ、より戦略的な役割を担うため」といった、明確な目的意識を持つことが最も重要です。プロジェクトの各段階で、「この取り組みは当初の目的に合致しているか?」と常に自問自答する姿勢が求められます。目的が曖昧なまま進むと、方向性がぶれたり、効果の薄い施策にリソースを割いてしまったりする原因となります。経営層から現場担当者まで、全員が目的を共有している状態が理想です。 - ポイント②:現場を巻き込む(ユーザー中心のアプローチ)
新しいシステムやプロセスを実際に使うのは、経理部門の担当者です。彼らの意見を聞かずにトップダウンでDXを進めても、現場の抵抗に遭ったり、実情に合わない使いにくい仕組みになったりする可能性が高いです。企画段階から、現状の課題ヒアリング、ツール選定への意見反映、テスト導入への参加などを通じて、現場担当者を積極的に巻き込みましょう。彼らが「自分たちのためのDXだ」と感じ、主体的に関与することが、スムーズな導入と定着、そして期待される効果の発揮に不可欠です。 - ポイント③:ツール導入の前に「業務プロセス」を見直す
非効率な業務プロセスをそのままデジタルツールに置き換えただけでは、限定的な効果しか得られません。「そもそもこの業務は必要なのか?」「もっと効率的なやり方はないか?」といった視点で、既存の業務プロセスそのものをゼロベースで見直し、最適化することが重要です。デジタルツール導入を、業務プロセス改革(BPR: Business Process Re-engineering)の良い機会と捉えましょう。理想的な業務フローを描いた上で、それを実現するための最適なツールを選定するという順番が望ましいです。 - ポイント④:データ活用を見据えた設計とガバナンス
経理DXの大きな目的の一つは、蓄積されたデータを経営に活かすことです。そのためには、導入するシステム間でデータがスムーズに連携できるか、必要なデータを適切な形で収集・蓄積・分析できるかを初期段階から考慮しておく必要があります。また、データの品質をどう担保するか、誰がデータにアクセスできるかといったデータガバナンス(データ統制)のルールを定めておくことも、将来的なデータ活用の基盤となります。 - ポイント⑤:スモールスタートと段階的な展開
最初から完璧を目指し、大規模なDXを一気に進めようとすると、失敗のリスクが高まります。まずは効果が出やすく、影響範囲が限定的な業務からスモールスタートし、成功体験を積み重ねながら、徐々に対象範囲を広げていく「段階的なアプローチ」が現実的です。小さな成功が、次のステップへの推進力となり、社内の理解や協力を得る上でも有効です。 - ポイント⑥:変化に対応する柔軟性と継続的な改善
ビジネス環境や技術は常に変化しています。一度システムを導入したら終わりではなく、定期的に効果を測定し、ユーザーからのフィードバックを収集し、必要に応じてプロセスやツールを見直し、改善し続ける姿勢が重要です。経理DXはゴールではなく、継続的な「旅」であると捉え、変化に柔軟に対応していくことが求められます。
これらのポイントは、経理DXプロジェクトの羅針盤となる考え方です。常にこれらの原則に立ち返りながらプロジェクトを進めることが、成功確率を高める鍵となるでしょう。
ツール・システムの種類と選び方のコツ

経理DXを推進する上で、自社の目的や課題に合った適切なITツールやシステムを選定することは、成功を左右する非常に重要な要素です。ここでは、経理DXでよく活用される代表的なツール・システムの種類と、それらを選ぶ際のコツについて解説します。
経理DXで活用される主なツール・システム
- クラウド会計ソフト:
- 概要: インターネット経由で利用できる会計ソフト。仕訳入力、帳簿作成、決算書作成などの基本的な会計機能を提供。銀行口座やクレジットカード明細との自動連携、請求書発行機能などを備えるものも多い。
- メリット: 場所を選ばずアクセス可能、常に最新機能・法改正に対応、初期費用が抑えられる、他システムとの連携が容易な場合が多い。
- 代表例 (日本国内): freee会計, マネーフォワード クラウド会計 など。
- 選び方のコツ: 自社の業種・規模に合っているか、必要な機能は揃っているか、既存システムとの連携は可能か、サポート体制はどうかなどを確認。
- 経費精算システム:
- 概要: 従業員の経費申請から承認、支払処理までの一連のプロセスを電子化・効率化するシステム。レシートのスマホ撮影・自動読み取り(OCR)、交通系ICカード連携、法人カード連携、承認ワークフロー設定、会計ソフト連携などの機能を持つ。
- メリット: 申請・承認作業の効率化、ペーパーレス化、不正申請の抑制、仕訳入力の自動化。
- 選び方のコツ: 従業員にとって使いやすいか(UI/UX)、自社の承認フローに対応できるか、連携したい会計ソフトや法人カードに対応しているかを確認。
- 請求書発行・受領システム:
- 概要: 請求書(見積書、納品書なども含む)の作成、送付(電子発行・郵送代行)、受領、データ化、保管までを効率化するシステム。特に、電子帳簿保存法やインボイス制度への対応で重要性が増している。
- メリット: 請求書業務の効率化、ペーパーレス化、郵送コスト削減、法令対応、受領した請求書のデータ入力自動化(AI-OCR連携など)。
- 選び方のコツ: 電子インボイスの標準規格(日本国内ではPeppolベース)への対応状況、取引先の利用状況との兼ね合い、既存システムとの連携性を確認。
- RPA (Robotic Process Automation):
- 概要: 人間がPCで行う定型的な繰り返し作業(データ入力、ファイル操作、システム間連携など)を、ソフトウェアロボットが代行する技術。
- メリット: 24時間365日稼働可能、ヒューマンエラー削減、大幅な作業時間短縮。
- 適用例: 請求データの基幹システムへの入力、複数システムからのレポート作成、定型的な照合・突合作業など。
- 選び方のコツ: 自動化したい業務内容との適合性、操作の容易さ(プログラミング知識不要のツールも多い)、費用対効果を検討。スモールスタートしやすい。
- OCR (Optical Character Recognition):
- 概要: 紙の書類や画像ファイルに含まれる文字情報を読み取り、テキストデータに変換する技術。AI技術の進化により、手書き文字や非定型帳票の読み取り精度も向上している(AI-OCR)。
- メリット: 紙媒体からのデータ入力作業を自動化・効率化。
- 適用例: 紙の請求書、領収書、納品書などのデータ化。経費精算システムや請求書受領システムに組み込まれていることが多い。
- BI (Business Intelligence) ツール:
- 概要: 会計ソフトや販売管理システムなど、社内の様々なシステムに蓄積されたデータを集約・分析し、グラフやダッシュボードなどの形式で可視化するツール。
- メリット: 経営状況のリアルタイムな把握、問題点の早期発見、データに基づいた意思決定支援。
- 選び方のコツ: 分析したいデータソースとの連携性、操作性(専門家でなくても使えるか)、表現できるグラフやレポートの種類を確認。
ツール・システム選び方のコツ まとめ
- 目的と課題を明確に: 何を解決したいのか、どんな効果を得たいのかを明確にし、それに合致するツールを選ぶ。
- 連携性を重視: 会計ソフトを核として、他のシステム(経費精算、請求書、販売管理など)とスムーズにデータ連携できるかを確認する。API連携の可否は重要なポイント。
- 操作性と定着しやすさ: 実際に使う従業員がストレスなく操作でき、業務に定着するかどうかを重視する。無料トライアルやデモで確認する。
- 拡張性と将来性: 将来的な事業拡大や業務変化にも対応できるか、ツールの機能拡張やアップデートは継続的に行われるかを確認する。
- 費用対効果を検討: 初期費用だけでなく、月額利用料、保守費用なども含めたトータルコストと、導入によって得られる効果(効率化、コスト削減など)を比較検討する。
- セキュリティとサポート: 金銭に関わる情報を扱うため、セキュリティ対策がしっかりしているか、困ったときに頼れるサポート体制があるかは必須条件。
焦って多機能なツールを導入するのではなく、自社の状況に合わせて、必要な機能を備えたツールを段階的に導入していくことが、失敗しないためのポイントです。
失敗しないためによくある課題と注意点

経理DXは多くのメリットをもたらす一方で、その導入プロセスにはいくつかの落とし穴(課題)が存在します。事前にこれらのよくある失敗パターンとその対策を知っておくことで、自社の取り組みを成功に導く確率を高めることができます。ここでは、経理DXで陥りがちな課題と、それを避けるための注意点を解説します。
- 課題①:「DX導入」自体が目的になってしまう
- 状況: 「DXをやらなければ」という焦りから、目的や解決したい課題が曖昧なまま、流行りのツールを導入すること自体がゴールになってしまうケース。
- 結果: 導入したものの活用されなかったり、期待した効果が得られなかったりする。
- 注意点・対策: なぜDXを行うのか(目的)、何を目指すのか(目標)を導入前に徹底的に議論し、経営層から現場まで共通認識を持つ。ツール選定は、あくまで目的達成の「手段」と位置づける。
- 課題②:現場の従業員の理解や協力が得られない
- 状況: 新しいシステムや業務プロセスへの変更に対して、経理担当者が「今のやり方を変えたくない」「新しいツールを覚えるのが面倒」といった抵抗感を示すケース。
- 結果: システムが十分に活用されず、導入効果が限定的になる。あるいは形骸化する。
- 注意点・対策: 導入初期段階から現場担当者を巻き込み、意見を聞く。DXの必要性やメリットを丁寧に説明し、不安を取り除く。十分なトレーニング期間と、導入後の手厚いサポート体制を用意する。スモールスタートで成功体験を積んでもらうことも有効。
- 課題③:自社の業務プロセスにツールが合わない
- 状況: ツールの機能に合わせて既存の業務プロセスを無理やり変えようとしたり、逆にカスタマイズを重ねすぎてツールが複雑化・高コスト化したりするケース。
- 結果: 業務が非効率になったり、ツールのメリットを享受できなかったりする。
- 注意点・対策: ツール導入前に、自社の業務プロセスを見直し、標準化・最適化できる部分はないか検討する(BPR)。その上で、自社のコア業務に適合し、かつ業界標準に近い、カスタマイズが少ないツールを選ぶのが理想。ツールの機能と自社プロセスとのフィット&ギャップ分析を事前に行う。
- 課題④:導入後の効果測定や改善が行われない
- 状況: システムを導入しただけで満足してしまい、その効果を具体的に測定したり、運用上の課題を把握して改善したりする活動が行われないケース。
- 結果: 投資対効果(ROI)が不明確なままになったり、問題点が放置されたりする。
- 注意点・対策: 導入前に設定したKPIに基づき、定期的に効果測定を行う仕組みを作る。利用者からのフィードバックを収集するチャネルを設け、それを基に運用方法の見直しや追加改善を行うPDCAサイクルを回す。
- 課題⑤:経営層のコミットメント不足と予算確保の問題
- 状況: 経営層が経理DXの重要性を十分に理解しておらず、必要な予算やリソースの確保、部門間の調整などに協力が得られないケース。
- 結果: プロジェクトが途中で頓挫したり、中途半端な取り組みに終わったりする。
- 注意点・対策: プロジェクト開始前に、経理DXの目的、期待される効果(特に経営への貢献)、必要な投資について経営層に十分に説明し、強力なコミットメント(支援の約束)を取り付ける。経営層を巻き込み、トップダウンでの推進体制を築く。
- 課題⑥:セキュリティ対策の軽視
- 状況: クラウドサービスや新しいツールの導入に伴うセキュリティリスク(情報漏洩、不正アクセスなど)への配慮が不十分なケース。
- 結果: 重大なセキュリティインシデントを引き起こし、企業の信用を失う。
- 注意点・対策: ツール選定時にセキュリティ機能やベンダーの信頼性を十分に確認する。アクセス権限管理を徹底する。従業員へのセキュリティ教育を行う。関連法規(個人情報保護法など)を遵守する。
これらの課題は、多くの企業が経験する可能性のあるものです。自社の状況に当てはめながら、事前に対策を検討しておくことが、経理DXを成功させる上で非常に重要となります。
まとめ:経理DXを成功に導くには
この記事では、経理DXの基本概念から、その導入メリット、具体的な進め方(7ステップ)、成功のための重要なポイント、ツールの選び方、そして失敗しないための注意点まで、幅広く解説してきました。
経理DXは、決して簡単な取り組みではありません。時間もコストもかかりますし、組織的な変革も伴います。しかし、適切に進めれば、その効果は計り知れず、経理部門は単なるコストセンターから、データに基づいた洞察を提供し、経営戦略を支えるバリューセンターへと進化することができます。
電子帳簿保存法やインボイス制度への対応が求められるなど、外部環境も経理部門のデジタル化を後押ししています。この変化を前向きに捉え、自社の状況に合った形で経理DXへの一歩を踏み出すことが、これからの時代を勝ち抜くための重要な鍵となるでしょう。